病気と治療

眼科の病気と症状

黄斑前膜

黄斑前膜とは

黄斑前膜は、比較的頻度の多い病気です。
40歳以上の7~11%、日本人だと4~5.4%ほどの人に発症すると報告されています。
「網膜前膜」「網膜上膜」「黄斑上膜」ともいわれますが、すべて同じ病気です。

目の奥にある網膜は物を見るのにとても大切ですが、その中でも特に大切な中心の部分を、黄斑といいます。
黄斑に病気が生じると、視力が下がったり、物が歪んで見えます。その黄斑に薄い膜が張ってくる病気が、黄斑前膜です。

症状

前膜が軽度で網膜の形態がほぼ正常な時は、症状もなく経過観察でよいですが、前膜が悪化し厚くなってくると、網膜の形が変形して症状が出ます。
黄斑前膜の症状は、

  1. 視力が下がる
  2. 物が歪んで見える(変視)
  3. 物が大きく見える(大視症)

の3つです。

この中で重要な症状は変視です。変視が生活にもっとも影響することがわかっています。

治療

治療は手術です。目薬や飲み薬はありません。
「硝子体手術」という手術を行います。強膜(白目の部分)に傷口を3か所作り、器具を挿入して黄斑前膜を除去します。
網膜の最も内側(網膜は全部で10層からできています)の内境界膜も除去した方が、再発が少ないことがわかっており(内境界膜を除去すると再発がほとんどありません)、原則一緒に取り除きます。

患者さんの重症度や術者にもよりますが、だいたい30~60分の手術です。局所麻酔で行いますが、痛みはほとんどありません。
ご希望の方には、不安を和らげる麻酔も当院では採用しています(低濃度笑気麻酔)。
白内障がある方は、一緒に手術を行うことが多いです。

手術のタイミング

黄斑前膜はいつ手術すればいいのか、まだ定まった見解はありません。
黄斑前膜を除去した後も、正常な形態には戻らないため、歪みや視力低下はある程度残ります。
早期に手術するほど最終的な視力はよく、悪化してからの手術ほど後遺症が強く残る病気といえます。
しかし、手術によっても少なからず黄斑は傷むため、まったく症状のない人に手術をすると、視力低下や変視が出現することがあります。
当院の調査では、手術前に変視がなかった人に手術をすると、術後に4割の人に少ないながら変視が生じることがわかりました。

手術のタイミングを決めるポイントはいくつかあります。

1つ目 変視の程度

先述したように、黄斑前膜の症状の中で重要なのは変視であり、手術後の変視が生活にもっとも影響します。
変視を測定する検査には、アムスラーチャートとMチャート【図1】の2つがありますが、「変視の強さ」を調べるMチャートが大事です。
このMチャートで、0.5以上あると(数字が大きいほど変視が強い)日常生活に支障がでることがわかっており、Mチャートが0.5となる前に手術をすることが1つのポイント、といえます。

ちなみに変視には、縦線の歪みと横線の歪みがありますが、文章の多くは横書きであるため、横の変視の方が自覚しやすいです。
また、手術によって横線の歪みは改善しやすく、縦線の歪みは改善しにくいです(視神経乳頭の関係で網膜は縦向きに変形しやすいため)。
ちなみに、大視症も手術によってあまり改善しません。

図1:Mチャート
《図1:Mチャート》

2つ目 光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)の所見

網膜を非侵襲的に(痛みや障害を伴うことなく)検査できる機械で、この数十年の眼科診療の中でもっとも偉大な発明ともいえるものであり、どの病院、クリニックにもあります。
そのOCTで黄斑前膜の有無や程度がわかりますが、

  • Stage1:正常な黄斑形態
  • Stage2:中心のへこみがなくなる(中心窩陥凹の消失)
  • Stage3:中心に本来ない網膜の層が出てくる(異所性内層)
  • Stage4:最後は形態が破壊されてくる(EZ、ELMなどの不鮮明化)

と分類されており【図2】Stage3以上だと視力予後は悪い、ということがわかってきています。

図2:光干渉断層計画像
《図2:光干渉断層計画像》

3つ目 他の病気の有無

白内障はいずれはすべての人が手術を受ける病気ですが、その時に黄斑前膜があれば、どうせ白内障の手術をするのなら一緒に、と手術のハードルは下がります。
反対に、緑内障のある人(黄斑前膜の手術により緑内障が進行しうる)、強度近視ぶどう膜炎のある人(前膜の癒着が強く、手術により網膜を障害しやすい)は、手術のハードルが上がります。

これらの要素を踏まえて、どの段階で手術を行うかは、医師とよく相談して決めるとよいでしょう。

黄斑前膜は、急に進行することはありませんが、手術してもある程度症状が残る、何とも嫌な病気です。症状をなくすことではなく、生活に支障がない範囲で症状を抑えることが目的、と理解されるとよいと思います。

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