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医療の理想を示せる 病院でありたい。
院長 真鍋恭弘

院長 真鍋恭弘

一人の医師との出会い

かつて小学校の卒業文集に「医者になりたい」という夢を記したとき、私が理想として思い浮かべていたのは、一人の男性医師の姿でした。
病弱で学校を休むことも多かった子供の頃、私はしばしばその医師の診療所で治療を受けました。もう60歳ほどのお年だったと思います。その先生は、診察室に入った私をいつも静かに迎えてくれました。先生の穏やかなたたずまいに接したとき、私は何とも言えない安心感と安堵感に包まれたものでした。
そうしてその先生の治療を受けながら、私はやがて「医者になりたい」と思いはじめました。いや、正確に言うのならば「その先生のような医者になりたい」という思いが芽生えたのです。

病を快方へと導くのは「人」

その先生は多くを語る人ではなく、必要最小限のことしか言われません。静かな声で「風邪…ですね」「お腹を壊したようだから注射しておきましょう」「丸一日は何も食べないように」…。
しかしそのわずかな言葉は、どれほどの饒舌よりも深く私の心に染み渡っていきました。その先生の笑顔と声に接したその瞬間から、もうすでに病は快方に向かっている。「この先生に会うと病気は治る」――私にはそのように思えたものでした。
幼少のときのこの実感を、今ならもう少し違う言い方で表現できそうです。すなわち「『病気』対『薬』、『病気』対『医術』ではなく、“その医師”が“患者”を快方へと導くのだ」と。“その医師”――つまりひとつの人格と顔を持つ「人」。そういう「人」が、“患者”という病を持つ「人」を快方へと導く力になるのだ、と。
幼少の私が漠然と感じていたものは、私を一個の「人」として全人的に受け止めようとするその医師の「覚悟」のようなものだったのかもしれません。
以来その医師は、私にとっての医療人のロールモデルとなっています。

人としていかにあるべきか

「医療とは人が人に施すもの」であり、患者と医師の「心の交流」と相互の「信頼関係」の上に成り立つものだと思います。従って真生会富山病院の職員は、医療職者である前に一人の人間として、苦しみを持つ人に向き合う一個の人間としてどうあるべきか、人としてどういう姿が望ましいのかを、考える人物であってほしいと思っています。患者さんに対し自然に、一人の人として振舞える人でなければ、いかに医療技術に秀でていようと病気を診ることはできないのだと、私は考えています。

医療技術の「限界」と「哲学」について

人間の苦しみを表す「四苦八苦」という言葉があります。医療とは人間の「四苦」、つまり「生老病死(しょうろうびょうし)」の中の「老病死」に関わる行為です。それらの苦しみをいかに和らげ取り除くか――「抜苦与楽」つまり苦を取り去り楽をもたらすことこそが病院の使命です。
しかしここで、誤解を恐れずに言うのなら、これら人間の苦しみというものは医術や医薬だけでは、完全に取り除くことはできないものでもあります。もちろん、医療人はそれらを完全に取り除くべくひたすらに尽力せねばなりません。しかし一方で、現代の医療技術には限界があります。その限界を乗り越える努力は、全力でなさねばなりません。しかし限界があることも揺るがすことのできない事実です。
医療技術のこの限界を謙虚に受け止めること。その上で、患者の苦しみに向き合う中から、“その人”の苦しみを和らげ取り除く一本の「与楽」の道を見つけ出していくこと。それが医療人に求められる使命だと思うのです。ふたたび誤解を恐れずに言うのなら「病が完治しなくても患者を苦しみから救える可能性」についても、医療人は思いを致すべきだと考えます。
従って医療人には、医療技術を扱うための「哲学」が必要です。それこそが医療人が医療の限界に直面したとき支えとなってくれる精神的支柱だと思うからです。

医療の理想を示せる病院

今日、医療は大きく変わろうとしています。急速に進展する高齢化社会、目まぐるしく移り変わる医療保険制度、さらに延命治療や先端医療技術における倫理問題など、大きな時代のうねりが押し寄せています。そのような情況の中で、病院と医療人は何をなすべきか、どうあるべきか。今、誰もその答えを明確には出しえてはいません。
私たち真生会富山病院は、「自利利他」の精神に基づき、「抜苦与楽」を目的に、笑顔と思いやりをもって患者さんに接する「和顔愛語」を行動指針として医療をおこなっています。その根底に流れるのは、「病」だけでなくその「人」を見つめ、医療を施していこうとする精神です。患者さん本人としっかり向き合い、患者とともに病に立ち向かっていこうと思います。
患者さんによってそれぞれ異なる「抜苦与楽」の道を、患者さんとともに見つけ出そうとする私たちの信念は、いかに時代が変わろうとも医療の進むべき道であると信じています。
「医療の理想を示せる病院でありたい」――私たちの思いに共鳴する若い医療者との出会いを、願ってやみません。

広報課からのひとこと情報

  • その1 日本耳鼻咽喉科臨床学会の最優秀賞を受賞しました。(論文「急性低音障害型感音難聴の治療薬剤について」平成17年度)
  • その2 真鍋院長の治療を受けた小学生の作文が、新聞に掲載されました。かつて一人の医師との出会いが真鍋少年を医療の道へと導きました。どうかこの少年の夢が叶いますように!!

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