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傷ついた人の心は、人によってしか治せない。
心療内科部長 明橋大二

心療内科部長 明橋大二

医師を志した小学生時代

私が医師を志したのは、小学生の頃。当時日本は、高度経済成長の時代。急激な経済成長は社会に歪みをもたらし、光化学スモッグなど様々な公害が発生して多くの人が健康被害で苦しんでいました。
TVや新聞でそんな報道を見て、幼いながら私は考えていたんです。人類は生活を豊かにしようと技術を開発してきたのに、意に反して新たな苦しみを生み出している。核技術もそう。もし私の発明したものが人間を不幸にしてしまうことになったら、それはたまらないな、そんなことは嫌だな、と。
けれど「人の命を延ばす」ということには、つまり医療にはそんな「悪」は無いんじゃないか、どんな時代でも人の役に立つ仕事ではないか、と。
そんなふうに子供心に考えていました。いらんこともいっぱい考えてたけど(笑)、いろんなことを考える子供でした。

パンクロックと哲学にのめりこむ

高校から大学時代にかけては哲学にかぶれ、同時にパンクロックにものめりこみました。セックス・ピストルズやトーキング・ヘッズ、イアン・カーティスのジョイ・ディビジョンってバンドが好きだった。当時のパンクロックはとても哲学的で、「人間は何のために生きるのか」といったテーマにも触れるようなものでした。
大学は医学部に進学しましたが、医療者ではなく脳の研究者を目指しました。脳を研究すれば人間の悩みや存在理由といった問いへの答えが見つかるように思ったからです。
研究者を目指してはいたものの、パンクロック好きが高じて、ある前衛的な音楽雑誌の編集部でスタッフとして働くことになりました。そこでは新しいアルバムのレヴューを書いたり、来日したアーティストの通訳をやったりと、いろんな体験をしました。ほとんど学校そっちのけで編集部に入り浸る日々が続きました。当然、大学での勉強は疎かになり、気がつけば5年生になっていました。

紆余曲折の人生

このままロックの世界で生きていくことはできないし、脳研究者としては落ちこぼれ。医師になれるかどうかも危うい。医学部出身で医師になれなければ、それこそツブシが利かない。これはえらいことだ(笑)ということで、必死になって勉強し、国家試験にだけは合格しました。けど医者としてやっていけるんだろうか…と悩んだ挙句、人を殺さない診療科は何だろうと考え、その結果、精神科への道を歩むことになったのです。まったく我ながら紆余曲折の人生でした(笑)。
ロックの世界には狂人と紙一重の人もいました。生きる意味を求めて音楽をやり、けれど心を病んで破滅したアーティストもたくさんいる。そういう人たちと付き合ってきたこともあって、そんな自分の経験も活かせるのではないかと思い、精神科医を志したのです。

身体も心も救われる医療

医師になった当初は、京都と愛知の病院でターミナルケアに携わり摂食障害の患者さんなどを診ていました。医者を志した子供の頃は「医療は命さえ延ばせばいい」と考えていたのですが、実際の医療の現場では「もう死にたい」「殺してくれ」と言う人もいれば、寝たきりで死を待つだけの人もいる。そういう人と接するわけです。当然のことながら「命さえ延ばせればいいのか」「命を延ばす意味は何なのか」という疑問も湧いてきます。
そんな悩みをある日、かねてから親交があった当院の中野一郎先生に話したのです。中野先生は「身も心も救われる医療」とおっしゃった。「そういう医療を真生会富山病院で実現したい」と。そしてその姿勢に共鳴した私に「一緒にやりませんか」と声をかけて下さった。そんな機縁があって、私はこの病院で働くことになったのです。

二重の苦しみを背負う人々

心の病の苦しみは目には見えません。患者さんは心が複雑骨折しているのに、熱が出るわけでもなく包帯をしているわけでもない。「甘えているんじゃないか」「わがままだ」とか「根性が足りない」などと誤解を受けている。病気でつらい上に、周りから理解されず責められる。そういう二重の苦しみを背負っているのです。「こんなに苦しいなら死んだほうがましだ」と死に追い込まれる病気でもある。
その人たちの苦しみを取り去り、どうすれば楽にしてあげられるか。その第一歩は、その辛さを分かってあげることだと私は思っています。それが「抜苦」に繋がると。

「ひとぐすり」ということ

最近ではいい薬ができてきました。しかし薬では治らない症状もあります。だから「ひとぐすり」が大事なんですね。人が薬となる、ということです。
精神を病む人の多くは人間関係がその原因となっています。そして人によって傷ついた心は、人によってしか癒すことはできない。人とのつながりの中で治していくということ、それが大事なんです。
初代院長の中野先生はこんなふうにおっしゃっていました。
「建物も大事、医療機器も大事ですが、もっと大事なのは患者さんを治そうとする病院職員の気持ちです。医局のスタッフ、看護師、コメディカル、病院の建物を管理している人たちに至るまでが、患者さんを迎えよう、患者さんに喜んでもらおうという気持ちをもったならば、この病院のパワーはもの凄いものになると思います」と。
患者さんの苦しみを理解して、それぞれの持ち場持ち場で支えていく。病院で働く全てのスタッフが「人薬」となること。それが治癒への大きな力となっていくと私は考えています。

若い医療者の人々へ

病気を診るのではなく人を診よ、とよく言われます。特に精神の病において、苦しみや気持ちを分かり支えてくれる人が果たす役割はとても大きい。その人を見つめ理解し、支えていくという姿勢を大事にしてほしいなと思います。
医療という仕事は大変だがやりがいのある仕事。私も医者になって良かったなと本当に思っています。
真生会は「心も身体も救われる医療」を目指す医療者が、全国から集まってきている病院。志を同じくする仲間と、互いを磨きあいながら共に仕事ができる、そんな幸せのある病院だと思っています。

広報課からのひとこと情報

  • その1 明橋先生の著書『子育てハッピーアドバイス』はシリーズで400万部を超えるベストセラー。
    米国、中国、台湾、韓国、ベトナム、タイなどで翻訳され、世界中の悩みを抱える人々に生きる力を与えています。
    また、初めての著作『なぜ生きる』は80万部を突破。大学病院の病室にも置かれ患者さんたちにも読まれています。
    また東尋坊にあるカウンセリングセンターにも置いてあります。
  • その2 『笑っていいとも!』にも出演。毎週火曜日「子育てコーナー」のレギュラーとして活躍しました。
    番組の最後にもらったタモリ携帯ストラップは先生の宝物です。

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