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各科からのお知らせ【心療内科】2024年1月26日(金)

災害時の子どものこころのケア

1.子どものこころの反応
2.いつもと違う状況では、いつもと違う反応が起きるのがフツウ
3.いつも通りできることは、いつも通りに
4.現実世界に逃げ場がないときは、非現実の世界へ逃げるのもアリ
さいごに:子どものためにも、大人自身のケアも大切に

1.子どものこころの反応
大規模災害など突然の非常事態が生じると、大人以上に子どもは強いストレスを感じます。
今回の大地震のような「大人も慌てて不安になるほどの事態」が「突然起きる」と、想像以上に不安になると思います。
まずは子どもの年齢に応じて、何が起きているのか、分かる範囲で伝えてください。子どもなりに、状況を理解することで安心できることがあります。
また「自分には何もできない」と無力感に陥ると、よけいに不安が強くなりますから、少しでも子どもに役割を持たせて、できることをさせましょう。
その時大事なのは、必要な情報だけ伝えるということです。状況がよくわからない中で「〇人死亡」などの情報が流れると、パニックになる子もいます。テレビやラジオの情報は重要ですが、衝撃的な映像はできるだけ見せないようにしましょう。

また「怖いことが起きたのは、自分が悪い子だから?」「家族が怪我をしたのは、自分のせい?」と考える子もいます。「大丈夫、悪い子だからじゃないよ」「あなたのせいじゃないよ」と抱きしめて不安を受け止めてください。

2.いつもと違う状況では、いつもと違う反応が起きるのがフツウ
子どもは、自分の気持ちを言葉で表現することが十分にできません。言葉で伝えるのができないと、それが身体の症状に現われたり、行動の形で出てきたりすることがあります。
・身体の症状
お腹が痛い、頭が痛いなど身体の症状として、ストレスが表現されます。一通り身体の診察や検査をして異常がなければ、ストレスの可能性が考えられます。
それに対しては、まずは「(頭やおなかなどを)なでる」、そして大人が、子どもの気持ちを汲んで、言葉にすることが大事です。なでることで、「自分の不安を受け止めてもらった」ということが伝わり、スキンシップ自体が安心感をもたらします。また「不安だよね、怖いよね」と気持ちを言葉にすることで、そういう気持ちを言葉で吐き出していいんだよというメッセージにもなります。
過呼吸(過換気)になることもあるかもしれません。過呼吸は、緊張や不安から呼吸が「浅く、早く」なるために起きる症状です。そこから手の指が硬直することもあり、「身体が変になった」と怖くなって、さらに過呼吸がひどくなることもあります。過呼吸は、息苦しいために必死に息を吸おうとしますが、対処のコツは「息をゆっくり、吐く」ことです。ろうそくの火を消すように、口をすぼめてなるべくゆっくりと息を吐くようにしましょう。そばにいる人が一緒にすると、本人もやりやすいと思います。

・行動上の症状
わがままを言う、今までできていたことができなくなる、おねしょをする、イライラして暴れたりするなどです。これは不安から甘えたい気持ちが強くなったり、問題に対処したいがどうすればよいかわからなかったりすることから起きます。赤ちゃん返りや甘えには、可能な範囲で応えて安心感を与えると、落ち着いてくることがあります。

また災害時に時々あるのは、「再演」という現象です。地震の怖い経験をしたり、テレビなどで見た後に、「地震ごっこ」をすることを言います。わざと家具を揺らす、体を揺らして「地震だ」と叫ぶ、警報音を真似る、積み木を崩して「家が崩れた!にげろー」と叫ぶなど、子ども自身が体験したことを遊びの中で再演するのです。
大人からすると不謹慎で止めたくなる行動ですが、ごっこ遊びの中で怖かった経験を再体験し、そこから逃げたり立ち向かったりすることで、「きっとなんとかなる」という感覚を取り戻そうとする、子どもなりの心のケア行動だと言われます。避難所など多くの人がいる前では止めざるを得ないかもしれませんが、自宅で人目を気にしなくてもいい場所であれば、ムリに止めずに、遊びの中で気持ちを吐き出して、子どもなりに不安を乗り越えようとしているんだなと見守っていただければと思います。

3.いつも通りできることは、いつも通りに
非常時だからこそ、平常通りの日常を送れるならば、そうしましょう。緊急避難時は別として、「いつもと同じ」を意識することが、安心感を育てることにつながります。
好きな食べ物を食べられる、いつものゲームができる、普段通りに寝る、などの「ルーティン」が、心身の安定につながります。
お気に入りのぬいぐるみやグッズを持ち歩く、いつも聞いている音楽を聴く、など五感に「いつも通り」の刺激を与えることで、脳も安心しやすいはずです。

4.現実世界に逃げ場がないときは、非現実の世界へ逃げるのもアリ
ずっと災害の情報や映像ばかりだと、過剰に不安になりメンタル不調をきたすこともあるため、メディアとの付き合い方も調整する必要があります。
このような非常事態時は、あえて動画やゲームの世界に逃げるのもアリでしょう。現実逃避は、悪いことばかりではなく、心を守るために必要な時もあります。落ち着かない子には、一時的に動画やゲームの時間制限をゆるめてもいいのではないかと思います。

最後に:子どものためにも、大人自身のケアも大切に
保護者の方、大人自身のケアも大切にしていただきたいと思います。子どもがいると、「子どものために親がしっかりしなければ」とついつい無理をしがちです。それはもちろん大切なことですが、子どもを守るためには、親自身のケアも大切です。親が倒れてしまっては、子どもを守れないからです。
また、子どもが不安定な時は、親自身の不安が無自覚のうちに強まっていないかを振り返っていただきたいと思います。子どもの話をよく聞くと、親も知らず知らず不安のために眉間にしわが寄っていて、「お父さん(お母さん)が怒ってて怖い」ということもあります。不安を感じないようにはできませんが、せめて子どもの前ではなるべく普段通りを心がけ、それも難しければ「大人も不安になっちゃって、顔がこわばっちゃってるんだ。怒ってるわけじゃないよ」と素直に気持ちを言葉で伝えていただければと思います。

このような災害時のストレス反応は、専門的な対応がなくても多くの場合は自然と回復していきます。しかし反応が長引いたり、対処に困ることが多い場合は、保健師や医療機関に相談してみてください。


心療内科 明橋大二 高木英昌

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