病気と治療

眼科の病気と症状

加齢黄斑変性

加齢黄斑変性とは

物を見る上で網膜はとても重要ですが、その網膜の中でも最も大事な中心部分を、黄斑といいます【図1】。黄斑に問題が生じると、視力が低下したり、物が歪んで見えます。黄斑の中心には中心窩という最も重要な部分があり、中心窩に異常をきたすと、視力の低下がさらに深刻になります【図2】

【図1】
【図2】

加齢黄斑変性は、黄斑に「新生血管」という本来あるべきではない新しい血管が生じ、水漏れや出血を起こす病気です【図3】。正確には滲出型加齢黄斑変性といい、加齢黄斑変性には新生血管が生じない萎縮型加齢黄斑変性もありますが、今回は滲出型についてのみ記載します。

「黄斑変性」は、黄斑が傷むこと全般を指し、病気の名前ではなく所見(状態)のことをいいます。それに対し、「加齢黄斑変性」は病気の名前です。黄斑変性の一種に加齢黄斑変性があります。
新生血管の生じ方には数種類ありますが、患者さんの症状は同じですので、割愛します。

日本では視覚障害者の原因疾患の第4位であり(2019年全国調査)、多くの患者さんがいます。高齢化に伴って患者数も増えており、眼科の疾患の中では大変重要な病気です。

【図3】

症状

「視力が下がる」「物が歪んで見える(変視、歪視といいます)」が主な症状です。
加齢黄斑変性では、よほど大量の出血をしない限り、視野は障害されません。中心の見たい部分が歪む、ぼやける、という症状が生じます【図4】

「視力が低下する」病気はたくさんあります。しかし、「物が歪んで見える」という症状は、黄斑部の病気以外にはほぼありません。視力の低下は、急ぐものもあれば急がなくてよいものもありますが、「物が歪んで見える」という症状は放置せず、早めに眼科を受診するようにしましょう。

【図4】

検査

「眼底検査」で診断します。
眼底カメラ撮影と光干渉断層計(OCT)が主となります【図5】
昔は、新生血管の確認のために、「蛍光眼底造影検査」がよく行われていました。造影剤(フルオレセイン、インドシアニングリーン)を静脈に注射し、特殊な波長の眼底カメラで撮影します。新生血管は脆いため造影剤が漏出するので、新生血管の有無の確認ができます【図6】。ただし、まぶしかったり、嘔気が生じたり、稀にアレルギーが生じたり、と患者さんに負担のかかる検査です。

【図5】
新生血管から造影剤が漏出している。【図6】

最近は、光干渉断層血管造影OCT Angiography:OCTAと略します)が開発され、新生血管の有無を評価しやすくなりました【図7】。そのため、加齢黄斑変性に対して蛍光眼底造影検査を行う機会は減っています。それでも、大切な検査であることには変わりなく、医師に勧められたら頑張って受けていただければと思います。

【図7】

治療

加齢黄斑変性の治療は、新生血管の活動性を抑えることを目的とします。
その治療法に、1. 抗VEGF薬の硝子体注射と、2. 光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)があります。

1. 抗VEGF薬の硝子体注射

VEGF(血管内皮細胞増殖因子)とは、人間の体の中にあるたんぱく質の一種です。血管新生を促す働きがあり、体内で血管を作るために重要な働きをしています。そのVEGFが、本来あるべきでない場所で過剰に産生されることで病気が発症することがあり、そのひとつが加齢黄斑変性です。
ですので、VEGFを抑える薬剤を硝子体に注射することにより、新生血管の活動性を抑え、消退させる治療です。加齢黄斑変性の治療の中心となります。

硝子体注射は、外来で行え、強膜を通して注射するため少し痛みはありますが、すぐに終わります。ごく稀に眼内に細菌が入り、眼内炎となることがありますが、安全な治療です。
問題は、費用と頻度です。

抗VEGF薬にはいくつかの種類があります。それぞれ効果の強さ、持続期間、価格、プラスαの作用や副作用があり、医師は患者さんの状態に応じて使い分けますが、安価なものでも3割負担で2~3万円、高価なもので約5万円します。
しかも、硝子体注射は一度すれば終わりではありません。通常、最初の3か月は1か月毎に注射を繰り返し、その後は間隔を少しずつあけていく方法(Treat & extend:TAE)で行われることが多いです。注射を中止すると、高確率で新生血管が再発するためです。
ですので、徐々に間隔はあいていきますが、基本的には生涯注射が必要になります。患者さんによっては、4か月やそれ以上に間隔を延ばせる場合も多いですが、中には活動性が抑えられず、2か月毎で繰り返さないといけない方もあります(基本はどちらかの2峰性です)。
注射を繰り返していけば視力を維持していける病気ですが、費用や通院の負担が最大の問題点となります。

2. 光線力学療法(Photodynamic therapy:PDT)

光線力学療法(PDT)とは、光に反応する薬剤(ビスダイン)を静脈注射した後に、新生血管にレーザーを照射する治療です。
静脈注射されたビスダインの成分であるベルテポルフィンは、新生血管に集まります。注射15分後に、特殊な波長のレーザーを当てることにより、ベルテポルフィンが作用し活性酸素を発生させ、新生血管に障害を与えて活動性をなくす、という治療です。正常な網膜への障害は少なく、新生血管のみを治療することができます。治療は痛みなく、1~2分じっとしているだけで終わります。
PDTで最も気をつけることは、「やけど様の皮膚障害」です。
薬剤は全身にも回るため、強い日光などに当たると、皮膚にやけど様の副作用が生じ得ます。そのため、48時間は直射日光に当たらないようにしなければならず、通常初回は3日間入院します。退院後も治療後5日までは、直射日光はなるべく避けていただきます。2回目以降で慣れてきた患者さんは、外来で治療可能です。
PDT後1週間ほどは、逆に網膜の浮腫が増加し、視力が低下します。1週間程で元に戻り、1~3か月かけて効果が出てきます。

近年は抗VEGF薬による治療が主流ですが、PDTが効果がある症例は間違いなくあります。また、抗VEGF薬と組み合わせることで、より強い効果を発揮することも期待されます。

3. 硝子体手術

新生血管は出血しやすく、多量の出血が生じた場合は、手術が必要になります。特に、網膜の下に出血が生じた場合、緊急の手術が必要です。それでも後遺症が残ってしまいます。
加齢黄斑変性で、「急な視力低下」が起きることは通常ないため、急に見えにくくなった時は出血をした可能性があり、早期に受診が必要です。

この10年20年で、加齢黄斑変性の治療は革新的に進歩しており、しっかり治療すれば生涯視力を維持することが可能になってきました。
しかし、通院と定期的な治療が必要であり、手間と費用がかかります。一生涯付き合っていく病気と理解し、よく医師と相談しながら、治療を進めていくようにしましょう。

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