病気と治療

眼科の病気と症状

甲状腺眼症

甲状腺眼症とは

甲状腺眼症という病気があります。
1835年にイギリスのGraves医師が報告し、1840年にBasedow医師がさらに詳しく報告したため、Graves病、Basedow病ともいわれます。
甲状腺とは、首の真ん中、のど仏のすぐ下にある臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは、脈拍数や体温、自律神経の働きを調節しており、成長や発達、体の維持に欠かせません。
「甲状腺」という名前がついているため、過剰な甲状腺ホルモンによって起きる目の病気が甲状腺眼症なのだろう、と思っている人がありますが、それは間違いです。

甲状腺眼症というのは、「自己免疫疾患」のひとつです。
免疫とは通常、外からきた細菌やウイルスなどをやっつける働きがありますが、何かの間違いで、自分の体を攻撃してしまう免疫(自己抗体)が出来てしまう病気を、自己免疫疾患といいます。その中で、甲状腺と目の周囲を攻撃してしまう抗体ができて、目の症状が起きる病気を甲状腺眼症といいます。
その抗体が甲状腺を攻撃すれば、甲状腺ホルモンも上昇しますが、攻撃しなければホルモンは正常値であり、むしろ低下する場合もあります。
ですので、甲状腺ホルモンの値と甲状腺眼症は、原則関係がありません(ただし、甲状腺機能がコントロールされていない人は重症化しやすいです)。

発症率は年間1000人に1人くらいと言われます。男性よりも女性の方が多いですが、男性の方が重症化しやすいです。

症状

自己抗体が目の周囲のいろいろなところを攻撃するため、さまざまな症状がおきます【図】

【図】

主なものは下記ですが、いずれも、朝に増悪しやすい片側性も少なくない、という特徴があります。

眼球突出

眼窩(眼球の後方)で炎症が生じることにより、眼窩脂肪の増加、外眼筋の肥大などにより眼球が後ろから押され、目が飛び出したようになります【写真1】。甲状腺眼症と聞いて、最初に思いつく顔貌が、この眼球突出です。

《写真1:右眼の眼球突出 早期のステロイドパルス療法により改善》

上眼瞼後退

眼球突出と見た目は似ていますが、眼球が突出しているわけではなく、上のまぶたが上がりすぎてしまっているために生じるものです。ミュラー筋というまぶたを挙げる筋肉の炎症で生じます。
通常の人は、黒目の上に白目は見えません。頑張って目を開けているわけではないのに黒目の上に白目が見えていたら、上眼瞼後退の可能性があります。

眼瞼腫脹

上まぶたで炎症が生じることにより、まぶたが腫れます【写真2】
まぶたが腫れる病気はいろいろありますが、そのひとつが甲状腺眼症です。
美容的に問題になりますが、難治です。

《写真2》

斜視

目を動かす筋肉(外眼筋)の炎症により、目が動きにくくなるために生じます。
外眼筋は全部で6つありますが、その中で下直筋(下に向ける筋肉)と内直筋(内側に向ける筋肉)に生じやすいです。逆に外直筋などだけに炎症が生じている場合は、甲状腺眼症以外の病気をまずは考えます。

外眼筋の異常によって生じる眼球運動障害には、収縮障害(筋が縮めない、いわゆる麻痺)と伸展障害(筋が固くなってしまい伸びない)がありますが、甲状腺眼症は、伸展障害です。

下直筋に炎症が生じると、上を向くことができず、目は下を向きます。内直筋に炎症が生じると、外を向くことができず、目は内側を向きます。
そのため、典型的な甲状腺眼症の斜視は、内下側を向いていることが多いです【写真3】

《写真3:左目の甲状腺眼症。MRIで下直筋が肥大しており上を見た時に左目が上がらない》

圧迫性視神経症

頻度は少ないですが、もっとも重篤な症状です。
脳から目に向かう視神経という神経があります。外眼筋の炎症腫大により、視神経が圧迫されるために生じます。視力や視野の障害が進行し、急いで治療をしないと失明する危険もあります。

その他

それ以外にも、充血や流涙、逆さまつ毛などの症状が出る人もあります。

診断

まずは上記の症状で疑います。疑えば、血液検査MRIを行います。
血液検査では、自己抗体(TSAb、TRAb、TPO抗体)を調べます。甲状腺ホルモンの値は診断には有用ではありませんが、甲状腺機能亢進症を合併していることは多く、一緒に調べます。
MRIは活動性の評価に有用であり、炎症の有無、筋肉の肥大の有無、程度などがわかります。

治療

先述のように様々な症状を生じますが、どの症状であれ、喫煙は悪化させる大きな要因です。ですので、禁煙がまず大切です。
また甲状腺ホルモンの異常は重症化には関係しますので、甲状腺機能の正常化も大事です。

治療は発症後早期に行うことが重要です。
甲状腺眼症には、炎症活動期(発症後1~3か月)があり、その後線維化する非活動期に移行します。炎症の強い時期にステロイドという薬剤を点滴や局所注射で行います。炎症が落ち着いた後は、手術ボトックス療法などの治療になります。

当院では、非活動期の眼球突出と圧迫性視神経症に対する手術(眼窩減圧術)は行っておらず、必要に応じ信頼のおける他院にご紹介いたします。それ以外の治療は行っております。

甲状腺眼症は、活動性が出てからどれだけ早期に治療を開始できたかで、後遺症が変わります。

後遺症として残る美容的な問題が、QOL(生活の質)を大きく低下させます。
「毎日鏡をみるたびに憂鬱になります」
「気分がふさぎ込み、外出しなくなりました」
「うつ病になってしまいました」
という声も聞かれます。
それを防ぐためにも、早期発見、早期治療が大切です。

甲状腺眼症でお困りの方、最近顔貌が変わり心配、と悩んでおられる方は一度受診してみてください。

ページトップ