病気と治療

眼科の病気と症状

萎縮型加齢黄斑変性

萎縮型加齢黄斑変性とは

物を見るために網膜はとても重要ですが、その網膜の中でも最も大事な中心部分を黄斑といいます。黄斑に問題が生じると、視力が低下したり、物が歪んで見えます。
その黄斑が傷む病気を黄斑変性といいます。黄斑変性にもいろいろありますが、その中に加齢黄斑変性(AMD)があります。
AMDには、新生血管という本来あるべきではない新しい血管が生じて傷む滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)と、新生血管がないまま傷んでくる萎縮型加齢黄斑変性(萎縮型AMD)があります。

滲出型AMDは坂道を転げ落ちるように悪くなりますが、治療薬(抗VEGF薬)があり、多くの場合治療を続けることにより視機能を維持することができます。治療法も日進月歩しています。
それに対して、萎縮型AMDは進行は緩やかですが、これまで治療法がなく、少しずつ悪化していくのを見ているよりありませんでした。萎縮型AMDに新生血管が生じて増悪することもあるため、新生血管ができないか経過を見るという疾患でしたが、後述するアイザベイ®が日本で発売されたため、考え方が変わってきました。
萎縮型AMDの患者数は、世界的には滲出型AMDと同数、アジア人では滲出型AMDの3分の1です。日本でも萎縮型AMDの人口は24万人ほどいると推測されています。

アイザベイ®の登場

アイザベイ®は、2025年に日本で初めて承認された、萎縮型AMDの治療薬です。アメリカでは2022年に発売されました。アイザベイは補体阻害剤といわれます。補体とは、血液の中にあるタンパク質の一種で、細菌やウイルスなどの外敵をやっつける働きをしていますが、自分の体を攻撃してしまう場合があります。アイザベイ®は補体C5を抑えることにより、補体活性経路の最終産物で網膜を傷害してしまうMAC(Membrane attack complex)の産生を抑え、萎縮型AMDの進行を抑える働きがあります。

アイザベイ®の注射は月に1回、12か月間行い、その後は2か月に1回投与します。最初から2か月に1回でもよいのでは、という疑問も生じますが、アメリカで調べると平均の投与間隔は7週間でした。1回の注射で3割負担の方で43000円程かかります。
アイザベイ®はあくまで進行を抑制する薬剤です。AMDを改善させることは難しく、進行を止めることもできません。進行を緩やかにする薬剤です。そのため、患者さんが注射をしてよくなったと感じることができませんし、毎月投与が必要なため費用も時間もかかります。ですが、これまで治療法がなかったところに光が差し込んだことは、大きな進歩です。適応をしっかりと見極めながら、活用していくことが大切です。

萎縮型AMDについて理解するには、聞きなれない単語にも親しむ必要があり、眼科医向けに詳しく述べます。

萎縮型AMDについて

視細胞外節の老廃物は、網膜色素上皮(RPE)→Bruch膜→脈絡膜毛細管板を通り、吸収されます。これらの障害により、ドルーゼンが蓄積します。
ドルーゼンには、軟性ドルーゼン(RPE下に蓄積)【図1】reticular pseudo drusen(RPD:RPEより上に蓄積)【図2】があります。

《図1a:軟性ドルーゼン》
網膜色素上皮(RPE)より下に存在《図1b:図1aのOCT》
《図2a:reticular pseudo drusen(RPD)》
RPEより上に存在《図2b:図2aのOCT》

ちなみにSubretinal drusenoid deposit(SDD)という用語もありますが、RPDと同じものを指します。RPDは眼底写真所見からの用語、SSDはOCT所見からの用語です。軟性ドルーゼンはBruch膜の障害が主のため、RPE→Bruch膜の間で老廃物が貯まります。RPDは脈絡膜循環不全が関与していると言われており、視細胞やRPEが障害されます。そのため、視細胞→RPEの部分で老廃物がたまるので、RPE上にできます。
特に軟性ドルーゼンには補体が多く含まれており、その慢性炎症により萎縮してくれば萎縮型AMD、新生血管が発生すれば滲出型AMDとなる、というのがAMDの典型的な機序です。それ以外に、特に日本ではパキコロイド(厚い脈絡膜を持つ疾患)から生じる萎縮型AMD、滲出型AMDがあります。

萎縮型AMDの診断には、地図状萎縮(GA)が必須です。GAは、RPEが消失して脈絡膜血管が明瞭に透見される萎縮で、診断には眼底自発蛍光(FAF)とOCTが重要です。FAFは、リポフスチンがあると過蛍光、RPEがないと低蛍光となりますが、GAは境界明瞭な低蛍光となります【図3a】。またOCTでhyper transmissionといわれる、RPEがなく脈絡膜が高反射となる所見があります【図3b】

低蛍光となる
周囲が過蛍光となるdiffuse-trickling patternがみられる
《図3a:地図状萎縮(GA)のFAF》
RPEより後方が高反射となる
hyper transmissionがみられる(矢印)
《図3b:地図状萎縮(GA)のOCT》

アイザベイ®の発売により変わったこと

これまでは、黄斑萎縮の鑑別はそれほど必要ではありませんでした。治療法がなく経過観察しかできなかったため、せいぜい新生血管が発生しないかをみていく、という考えでしたが、治療薬であるアイザベイ®の発売により、黄斑萎縮の鑑別が必要になりました。
大事なことは、萎縮型AMDやGAというのは、「補体が関与した萎縮」であることです。ですので、補体以外の原因の黄斑萎縮は、萎縮型AMDやGAとはいいませんし、アイザベイ®も効果がありません。そこで鑑別が問題になります。下記ですべてではありませんが、鑑別疾患を示します。

1. 滲出型AMDによる黄斑萎縮(macula atrophy:MA)

滲出型AMDでも、進行すると瘢痕化し黄斑部が萎縮します。この萎縮は黄斑萎縮(MA)といい、補体による萎縮であるGAと区別されます。新生血管(MNV)の病歴や線維化組織の有無で鑑別します。ただし、滲出型AMDと萎縮型AMDは根っこの病態は同じであり、MAとGAが混在することはあります。

2. 網膜ジストロフィ

先天性の網膜ジストロフィでも、黄斑萎縮をきたします。若年からの視力障害やドルーゼンがないこと、家族歴から鑑別します。

3. 慢性化した中心性網膜症(慢性CSC)

長期間の網膜下液による萎縮であり、あくまでも補体活性化などの慢性炎症を背景にしたパキコロイドによるGAとは分けます。CSCの存在や、FAFのパターンで判断します。

4. 網膜色素上皮裂孔

その部分のRPEが消失するため、境界明瞭な萎縮をきたします。OCTで網膜色素上皮裂孔の所見をしっかり読影するのがポイントです【図4】

色素上皮が裂けて丸まっている(矢印)《図4a:網膜色素上皮裂孔の眼底写真》
矢頭間はRPEがなく、矢印の部分に丸まっている《図4b:図4aのOCT》

5. Extensive macular atrophy with pseudo drusen-like appearance (EMAP)

私も初めて聞く疾患概念でしたが、RPD有意な広範な黄斑萎縮が両眼対称性に生じ、急速に進行してくる疾患です。虚血が関与し補体の関与は乏しいと言われています。「RPD有意でやや若年、両眼性で進行が速い萎縮型変性」はEMAPを疑います。

進行の程度・進行速度の判断が必要に

もうひとつ、アイザベイ®の発売により、萎縮型AMDの程度や進行速度の判断が必要になりました。それらがわからないと、どれくらいの間隔で見ればよいか、いつアイザベイ®を開始すればよいか、わからないからです。
程度の判断として、RORA(Retinal pigment epitherium and outer retinal atrophy)という概念があります。
RPEと網膜外層が萎縮している状態をOCTで定義したもので、不完全RORA(iRORA)完全RORA(cRORA)に分類されます。
cRORA=GAであり、その手前の軽度のhyper transmission、RPEやEZが不整の状態がiRORAです。cRORAにはアイザベイ®は効果がないため、iRORAの段階で治療しよう、という概念です。
萎縮型AMDの診断にはGAが必須なのですが(GAのない状態は適応外となりますが)、GAが完成すると効果がないため、その間の状態を見つけ、治療を検討する必要があります。
また、通院間隔も進行の速さにより変わります。どのような症例が進行が速い症例なのでしょうか。

1. FAFのdiffuse-trickling pattern

萎縮型AMDの診療にFAFは不可欠ですが、FAFの低傾向の周囲に過蛍光がある所見です【図3a】。FAFの低蛍光はすでにRPEがない部位、過蛍光の部位はRPEがとても頑張っており、瀕死の状態です。過蛍光の部位はやがてRPEが死滅しGAとなります。diffuse-trickling patternがあると進行が速いサインです。

2. ドルーゼンタイプのGAの方がパキコロイドGAよりも進行が速いです。ドルーゼンには補体が多く、炎症が強いのです。

3. ドルーゼンのタイプとして、reticular pseudo drusen (RPD)の方が軟性ドルーゼンよりも進行が速いです。前述のとおりRPDは脈絡膜循環不全が関与しているためと思われます。アイザベイ®も効きにくい可能性があります。

4. 脈絡膜が薄い症例の方が、厚い症例よりも進行が速いです。

5. GAの数が多い方が、少ない症例よりも進行が速いです。

これらのことから、萎縮型AMDの程度、進行予想をして、治療適応時期を考える時代となりました。
勉強すべきこと、新しく覚えること、考えなければならないことが増え、不明点もまだまだ多いですが、今後黄斑萎縮の病態解明は劇的に進んでいきそうな予感がします。

ページトップ