臨床倫理指針

私達は次の臨床倫理指針にもとづいて医療を行います。

1 医療者の自律の観点から、適切でもっとも有益な医療を行うように努めます。

2 できるだけ患者に苦痛を与えないように、また合併症や副作用を可能な限り避けるように配慮します。

3 自律尊重の原則に基づき、患者に十分な説明を行い、同意を得るように努めます。

4 国籍、年齢、性別、社会的地位などにかかわらず公平な医療を行います。

5 倫理上、判断が困難な場合、臨床倫理倫理委員会で検討します。

倫理的な課題の具体的対応手順

1 臨床現場で生じる様々な個別具体的な倫理的課題について

臨床現場で生じている倫理的課題に気づき、多職種の医療チームで向き合う。多職種医療チームが困難を感じる場合、医療チームは臨床倫理委員会に相談することができる。臨床倫理委員会は医療チームの要請に応じて倫理カンファレンスを開催する。医療チームを構成する個人も、個別に臨床倫理委員会に相談することができる。臨床倫理委員会は外部識者(法律の専門家、倫理・哲学の専門家)の意見を求めることができる。一連の経過は、カンファレンス記録としてカルテ記載を行う。

2 新たな診療・治療方法、技術を導入する際に生じる倫理的課題についての対応

保険適用が認められているが当院では新規となる治療法を導入する場合は、まず当該部署で倫理面と医療安全面から十分に検討し、指導医の招聘あるいは他施設への出張研修などによって技術修練を行う。その上で、「研究倫理審査委員会」に審査申請を行う。審査によって承諾されたものについて、院長が実施を許可する。導入後、一定症例数あるいは一定の期間に達した時点で(症例数が少ない場合は一症例ごとに)、当該診療・治療方法、技術の妥当性を検証する。

エビデンスが十分でない新規治療の導入時における倫理的課題についての対応

保険適用が認められていないが、患者に有益と考えられる診療・治療方法、技術を導入する場合は、まず当該部署で倫理面と医療安全面から十分に検討し、必要であれば研修受講などを行う。その上で「研究倫理審査委員会」の審査を受け承認されたものについて、院長が実施を許可する。混合診療の可能性に留意すべく、申請者が医事課長と相談の上、申請者の責任・権限において判断する。研究として実施する場合は、特定臨床研究に該当する可能性がある。特定臨床研究は、厚生労働大臣の認定を受けた臨床研究審査委員会の審査を受けるものとする(当院の研究 倫理審査委員会は認定未取得)。
医薬品・医療機器・医療材料については当院の「医薬品・医療機器・医療材料の適応外使用および未承認使用の倫理審査申請に関する手順書」に従う。導入後、委員会で認められた一定症例数あるいは一定期間の当該診療・治療方法や技術の安全性・有効性を申請者が院長に報告する。院長は当該診療・治療方法や技術の継続の許可・不許可を判断し、申請者に回答する。継続の許可・不許可の判断に際し、院長は、「研究倫理審査委員会」あるいは「医療安全管理室」の意見を求めることができる。

3 人を対象とする生命科学・医学系研究における倫理に関する責務

当院で医学系研究を行う者(研究責任者および研究者)は、研究を開始する前(研究計画を立案する前)に、原則として学術推進室・学術グループが開催する臨床研究講習会を必ず受講し、医学系研究の基礎を学ぶ。また、年1回以上、臨床研究講習会を継続して受講することを必須とする。研究責任者・研究者、研究倫理審査委員会、機関の長(院長)は「ヘルシンキ宣言」および「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省・厚生労働省・経済産業省)および当院の「研究倫理審査委員会規程」に記されている各の責務を順守する。

4 倫理的な課題についての具体的対応指針例

(1)自己判断不能者への対応

当院の「説明と同意の基本方針」に加え、以下の倫理的配慮に努める。
意識不明や判断能力を欠いた成人において、緊急事態で生命に問題がある場合は、患者の事前指示書や医療上の委任状などがあればそれに従う。それらの書類が見当たらず、かつ代理意思推定者にすぐに連絡がつかない場合は、医療チームの判断で緊急治療を行う。ここで代理意思推定者とは、患者が事前に指名した人あるいは、患者の価値観・人生観を十分に理解し、患者の意思を推定できると医療チームが判断した人を指す。担当医師は、代理意思推定者や家族に事後説明し、理解を得るよう努める。
未成年患者の場合、両親または他の親権者またはその委任者に説明し同意を得るが、本人が医療の内容を理解できる場合は、その概要を説明する。

(2)検査・治療・入院の同意が得られない患者への対応

当院の「説明と同意の基本方針」に加え、以下の倫理的配慮に努める。
検査・治療・入院の必要性と実施しない場合の不利益について患者に十分な説明を行い、患者の同意が得られない場合は、医療チームはその背景にある患者の考えを傾聴するように努める。十分な理解・判断能力を有し、適切な検査・治療を受けなければ生命、身体、財産の保護が難しいことを理解している患者が、医療チームから説明を聞くことを拒否した場合は、説明も治療も行わないことになるが、患者の意思が変わった際に適切な対応が受けられる方法を患者や代理意思推定者に伝えておくように努める。

(3)身体抑制

身体抑制は、人権擁護の観点から問題があるだけでなく、高齢者の身体機能を低下させ、寝たきりにつながるおそれがある。さらに、人としての尊厳も侵され、時には死期を早めかねないことに十分、留意する。また、身体抑制の目的の正当性、手段の相当性についても考慮し、下記に示す例外事項3条件を満たさない場合には行わない。

    ≪例外事項3条件≫
      切迫性(抑制しなければ生命にかかわる可能性がある)
      非代替性(他に、代わる手段がない)
      一時性(必要がなくなれば、速やかに解除する)

(4)告知

告知は、患者の自律尊重の観点から大変重要であり、説明と同意の前提となる。
告知する内容は、病名・病態だけでなく、日常生活をサポートする情報も提供する。告知に際して配慮が必要な疾患は、癌だけでなく、進行性変性疾患、遺伝疾患、精神疾患、感染性疾患においても、同様の配慮が必要である。倫理的留意点をよく踏まえて、適切に告知を行う。なお、説明と同意については、当院の「説明と同意の基本方針」に従う。

(5)人生の最終段階における医療・ケア

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を踏まえ、当院の「人生の最終段階の治療・ケアの指針」を遵守し、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)、家族等に対するグリーフ・ケアを推進し、地域包括ケアシステムにおける地域密着型病院に求められる役割を担う。

(6)透析の導入および見合わせ

日本透析医学会の「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」を踏まえ、「腎代替療法が必要に至った時点での意思決定プロセス」に沿って医療チームで対応する。

(7)退院の拒否および強制退院

一般的に医師が入院治療を必要としない旨の診断をなし、診断に基づき患者に対し退院すべき旨の意思表示があったときは、特段の事由が認められない限り入院診療契約は終了すると考えられているので、医師は退院を拒否する患者および家族に対しても退院の方針を説明する。なお、患者の問題行動が病院の秩序を著しく乱したり、患者が医師・看護師の指示に従わず、医療業務が平穏に行われなかったり、著しく支障を及ぼすと考えられる場合や威力業務妨害や脅迫、暴行などの犯罪行為にかかると思われる場合は、診療を拒否しうる「正当な理由」になると考えられ、院長が強制退院を勧告できる。

(8)暴力(暴言・暴行等)行為

暴力(暴言・暴行等)行為は「暴力対応マニュアル」に基づき対処する。

令和4年5月26日
真生会富山病院院長

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