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「難聴」が認知症の原因に?「何となく聞こえにくいかも」と放っておくと危険です

最近、医学界で注目を集めている、ちょっとショッキングな情報があります。それは「難聴は認知症の大きなリスク因子」という学説です。

聴力と認知症。一見何の関係もないように思えますが、そこにはとても密接な関連性が潜んでいたのです。

なぜ難聴と認知症は関係があるのでしょうか?
難聴を防ぐためには、どうすればいいのでしょうか?

医学界注目の新事実

「難聴は認知症の重大な原因」
そんなショッキングな学説が、2017年に開催された国際アルツハイマー病会議の場で発表されました。

認知症は、脳の神経細胞が壊れたり異常をきたしたりすることで起こる症状や状態のことですが、何によってそのような異常がもたらされるのかは、これまで不明とされてきました。

以来世界の医療界では、難聴と認知症との関連性についての研究が急速に進み、今日では認知症患者の約9パーセントが、難聴が原因で発症したものと推測されています。
けれどもこの新しい知見は、一般の人々はもちろん、医療関係者の間でも知る人はまだ少ないのが現状。この事実が早く社会に周知され、難聴への対策が進むことが望まれます。

日本の65歳以上の認知症患者は602万人(2020年)、高齢者の約6人にひとりの割合とされています。その予備軍まで含めると、高齢者の4人にひとりが発症の可能性ありとされている今日、「難聴対策」は認知症患者をひとりでも減らしていくための有効な手立てであると考えられます。

聴覚と脳の深~い関係

難聴になると、なぜ認知症発症への危険性が高まるのでしょうか?
そのメカニズムの詳細はこれからの研究成果を待たなければなりませんが、現状ではおおむね次のように考えられています。

人間は耳から入ってくる情報(音)を電気信号に変換して脳に送り、さまざまに処理しています。誰かと話をしている時は、耳から入ってきた音声を処理し言葉として認識して、相手と受け答えを行います。音楽を聞く時も、耳でとらえた空気の振動をメロディとして認識し、心地よさを感じます。
耳と脳はこうした音の処理を、覚醒時も睡眠中も、ずっと休むことなく行っています。

耳の形状を思い浮かべてください。
まぶたと違って耳にフタはありませんね。外の音をいつでも取り入れられる構造になっています。なぜそんな形になったかというと、それは人間がひ弱な哺乳類だった遠い昔から、サバイバルしていくために常に音を聞けることがどうしても必要だったからだと考えられます。例えば夜、眠りに入った時、獣が忍び寄ってくる。その音を聞き取り、危険を察知し目を覚まして逃げ延びる。今でも夜中に物音がすると目が覚めるのは、私たちの生物としての本能がちゃんと機能しているからです。

このように私たちの耳は、24時間ずっと音を取り込み脳に信号を送り、脳もまた休むことなくそれを処理し続けています。耳からの情報=刺激を受けることで脳は活発に働き、活力を保っているのです。

刺激がなくなると衰える

ところが難聴になると、耳から脳に伝達される情報量は、極端に少なくなり、重篤な場合はほとんどゼロになってしまいます。脳の各部位は互いに連携しながら機能しているので、音声を処理する部位が健全に機能しないと他の部位も影響を受けます。そうなると神経細胞の働きが弱まり、脳の萎縮が進み、認知症発症につながってくるとされています。

また難聴になると、人や社会とのコミュニケーションをつい避けがちになってしまうことも深刻な問題です。

会話に参加できない。危険を察知する能力が低下する。支障をきたすので外に出るのがおっくうになる。そうすると社会的に孤立し、次第に抑うつ状態に陥っていくことになります。これらもまた、認知症発症への危険因子と考えられています。

このようなことから「難聴になると認知症発症のリスクが高まる」といわれているのです。2011年のアメリカのジョンズ・ホプキンズ大学の研究では、軽度難聴者の認知症発症リスクは、難聴でない人の2倍、中等度難聴者では3倍に上がると発表されています。

しかしこのことは逆に考えると、難聴にキチンと対処していくことができれば、認知症を積極的に予防していけることも意味しています。良好な「聞こえ」を維持することが、認知症への対策ともなります。では私たちは、どのように難聴に向き合えばよいのか。それを考えてみましょう。

認知症発症のリスク

難聴は高齢者だけのものじゃない ―考えられる3つの原因

多くの人は「年を取れば誰でも耳は遠くなる。それは避けられない」と考えていると思いますが、果たしてそうでしょうか?答えはNOです。国立長寿医療研究センターも「難聴と年齢とは直接の関係はない」という研究成果を発表しています(2008年)。

聴力悪化の原因は、病気や障害などによる聴覚障害を除くと、次の3つとされています。

[1] 大きな音を聞き続けること
[2] 動脈硬化症
[3] 加齢性難聴

[1]は説明不要だと思いますが、[2]動脈硬化症とは、血管が硬くなったり詰まったりすることで血液の流れが悪くなる状態のことをいいます。動脈硬化は太い血管だけでなく、体の末梢部の細い血管においても発生します。むしろ細い血管の所ほど体への影響は大きいといえます。耳には細かな血管が縦横に走っており、動脈硬化で血流が悪くなると、栄養不足で神経が働かなくなり、難聴になってしまうのです。

したがって若年であっても、動脈硬化による難聴は起こりえます。「難聴は高齢者特有の症状」と考えるのは、明らかに誤りです。ですから比較的若い人であっても、難聴が原因のひとつとなって認知症を発症する可能性は十分に考えられます。

加齢以外に原因が考えられないものが[3]加齢性難聴です。主な原因は、加齢によって内耳(耳の奥)の中にある細胞や神経経路に劣化や障害が生じる、脳の認知能力の低下、これら複数の原因が絡み合ったものと考えられています。

難聴にならないために

3つの原因それぞれについて、できる対策を考えてみましょう。

[1] 大きな音を聞き続けること

イヤホンなどで音楽を聞く時、大きな音はできるだけ控えること。うるさい電車の中などでイヤホンを使い音楽を聞くと周囲の騒音に負けないよう、ついボリュームを上げてしまうので特に注意が必要です。仕事などで騒音環境にいなくてはならない時には、耳栓を使うことも対策になります。

[2] 動脈硬化症

動脈硬化の原因となる脂質異常症(血中コレステロールや中性脂肪の増加)や高血圧、糖尿病などの生活習慣病の予防に努めること。肥満や喫煙、過度の肉体的・精神的ストレスなどを除き、減らしていく努力も欠かせません。

ウォーキングや水泳、エアロビクスなどの有酸素運動を生活に取り入れ、ふだんの食事や睡眠に気をつけることで、動脈硬化症の発生や進行を抑えていきたいものです。

[3] 加齢性難聴

老化による聴覚機能低下には、残念ながら根本的な治療法はありません。
ただ、中耳炎や治る病気に起因する難聴が進行している場合もありますので、「聞こえにくくなったのは年のせい」と決めつけず、専門医の診断を仰ぐことをお勧めします。

加齢性難聴は、誰にでも起こりうるものですが、先述した[1][2]の対策をとることで進行を遅らせることは十分に可能です。

それでも難聴になってしまったら?

こうした努力にもかかわらず難聴になってしまったら……?
残念ながら、難聴の治療開始が遅れ、神経が衰えてしまった場合、聴力の回復は期待できません。
難聴への対応は、限られた道しかありません。すなわちこれまで述べてきた「予防」か、それができなかった場合の「補聴器」による「聞こえの改善」、この2つです。

補聴器は有効な認知症予防ツールになる?

難聴を放置していると認知症を発症するおそれが高まるにもかかわらず、日本の難聴者の補聴器普及率は、欧米に比べはるかに低い水準にとどまっています。「補聴器をつけることはカッコ悪い」「老いぼれた気がする」などのネガティブなイメージが強く、「聞こえなくても我慢する」ことで、難聴を放置する結果になっているのではないでしょうか。

難聴を我慢することは、百害あって一利なし。補聴器の使用を強くお勧めいたします。
今日ではさまざまなタイプの補聴器が製品化されており、性能は日々、進化しています。

日本国内では残念ながら補聴器購入は一般的な健康保険、介護保険、医療保険でカバーされていません。しかし難聴の程度によっては公費を適用できる場合もあります。詳しくはかかりつけの耳鼻科や総合病院などで相談なさってください。

必ず医師の指導で補聴器を

最後に、補聴器の購入について申し添えておきたいことがあります。それは「まず病院で受診。そのうえで紹介された店で購入する」ということです。

補聴器はメガネと根本的に違います。メガネはかけた瞬間に見えるようになりますが、補聴器は2、3カ月の時間をかけて「体になじむよう音量を調整していく」必要があるからです。調整されずなじまない補聴器だと、聞こえてくるのは雑音ばかり、ということもままあります。その結果「つけたのに聞こえない」と使用をあきらめてしまう人も少なくありません。

利用者の状態を観察する医師の指導のもと、業者によるきめ細かな調整を経て、その人にぴったりフィットする補聴器が完成するのです。

耳鼻咽喉科の医師の中には、補聴器のスペシャリストである「補聴器相談医」の資格を取得した人も増えています。病院を選ぶ際の参考になさってください。

補聴器を購入する時のポイント

月刊なぜ生きる 令和3年2月号より
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